
竣工年:大正15年(1926)
設計:平林金吾、岡本馨
47都道府県中現役最古の府庁舎。
ファサードは全体的には無装飾。しかし玄関ポーチの悪夢のような石造彫刻、玄関・エレベータホールのケルト模様などからロマネスク様式であることが判る。しかし正庁の間はロマネスクが若干混在した新古典主義様式。ロマネスクと古典主義は水と油で折衷的(フリー・スタイル)である。しかしヴィクトリア朝フリースタイルを日本に導入した辰野建築のような本当にごたまぜの未消化なフリー・スタイルよりは各部分の整合性がとれている。
宇垣軍縮下、旧陸軍軍用地であった敷地に竣工した鉄筋コンクリート府庁舎を目の当たりにした大阪城内の軍関係者はこの巨大な庁舎を見て激怒したという。当時大阪府所管の内務省と陸軍省は帝国権力支配のライバル官庁同士であった。当時陸軍は紀州和歌山城から大阪城へ移築された木造御殿建築を第四師団司令部庁舎としていた。そして大阪市主導の陸軍敷地内にある大阪城天守再建の際、その引き換えに同じくロマネスク様式の陸軍第四師団司令部庁舎(1931)を大阪市民の金で建造し雪辱を果たしている。
バブル期に建替え計画があり、取り壊される予定であったため、内装に下手な改造が入っていない。特に豪華な大理石の階段ホールと正庁の間は必見。
また敗戦まで大阪府警察部特別高等課(特高警察)が入居した部屋の窓には、凄惨な拷問による死者が続出した取調室の鉄格子がいまだに残っているという。
リドリー・スコット監督の映画「ブラックレイン」では大阪府警本部として登場しハリウッドデビューを果たした。


同年代の他の大日本帝国の官庁建築同様、府民に愛され親しまれる府庁舎という意匠的思想は感じられない。このファサードが意図する思想があるとすれば多分それは「権力の意志」とか「内務省による国家統制」といったものだろう。
個人的には結構好きだが。


大正末期-昭和初期にかけて全体的な歴史的様式装飾は省きポイントとなる部分に装飾を残すやりかたが流行ったが、これはかなり徹底している。

実物は無茶苦茶でかい。








直線的なファサードとの意匠的整合性を図っているのだろう。




欄干のケルト模様も美しい。

正庁の間ではその比率が逆転するのである。


真っ白な壁に金彩と鮮やかな彩色、完璧なシンメトリ、古典的で簡素な装飾、日本の建築家にしてはかなり完成度の高い新古典主義様式である。

正面左2つのアーチの仕切り、タンパンがロマネスク様式の混在を示している。




ちなみに登記上の大阪城土地所有者は現在も陸軍省のままなのだという。






設計図ではこの装飾全て手書きのデッサンから起こしているのである。


忠実に復元されたことが判る。


復元工事の様子。














当時エレベーターはまだほとんど普及していなかった。理由は簡単で当時日本にはエレベータが必要な高層建築などほとんど無かったためである。












頑強さと機能美が融合した美しさ。近代建築は素晴らしい!