松坂屋大阪店 (現 高島屋東別館)
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竣工年: 1期/ 昭和9年(1934) 2期/ 昭和12年(1937)
設計:鈴木禎次
慶長16年(1611)名古屋で創業した松坂屋が大阪に進出したのは明治8年(1875)。この日本最古の百貨店が威信をかけて大阪日本橋堺筋に昭和9年(1934)新築したのが今日残る建築である。当時は店舗建築の如何が百貨店の成功を左右するとされていた。また京都-東京資本で最古参の三越に加えて、大阪は大丸、そごう、高島屋、阪急、大鉄(現近鉄)が本店を置き、いずれも大規模近代建築店舗がすでに稼動又は建設中であっただけに新店舗建設は相当なプレッシャーであったと思われる。
名古屋建築界の大御所、鈴木禎次に委ねられた新店舗は、松坂屋の名声に恥じぬ見事な出来映えとなった。ロマネスクあるいはルネッサンス様式を基調とし、細部意匠に当時ニューヨークの摩天楼でよく見られた幾何学的なアールデコ・スタイルの装飾が散りばめられたテラコッタのファサードは、今日もなお周辺環境とは異質の輝きを放っている。
極めて特徴的なのは一階にアーケードを設けたことである。アーケードは夏期に湿度が低い地中海性気候のイタリアでよく見かけるが、日本では珍しい。
内装は同じアールデコ・スタイルの大丸心斎橋店と比べると地味で、やや洗練性に欠けるかに見える。しかしエレベーター周りや、階段部分に高価な大理石が惜しみなく使用され、上質な仕上げがなされていることが判る。
<その後の松坂屋大阪店>
こうして松坂屋の旗艦店の一つになった大阪店だが、昭和41年(1966)ターミナル・デパート化を狙い京阪天満橋駅へ移転した。しかし官庁街の天満橋では客もまばらで、移転後一度も黒字化することは無かった。そして平成16年(2004)、大阪店はついに129年の歴史に幕を下ろした。
現在旧大阪店は高島屋の所有となり一階に家具・インデリア、カフェのテナントが入る一方、2階以上には高島屋の本社事務所と高島屋史料館が入居している。高島屋史料館は近代京都の美術工芸品が充実しており、一見の価値がある。
現存する作品が少ない鈴木禎次の代表作の一つであり、長らく事務所として使われてきたため建設当初の内装が良く残っている旧松坂屋大阪店は貴重な近代建築といえる。