2024年 07月 01日
大阪南陽演舞場(現 新世界国際劇場+新世界国際地下劇場)
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竣工年:昭和5年 (1930)
設計:増田清
旧新町演舞場(1922)が取り壊された現在、大阪で唯一残る上方舞演舞場の遺構。
現状下手糞な看板と白ベタ塗の壁面ペンキ塗装、内装も戦後改変されているのだろうが、よく見るとスクラッチタイルのロマネスク様式にアールデコが加味された、1920-30年代の典型的な歴史的様式建築であることが判る。RC造の西洋風の外観と近世木造劇場建築の伝統である花道と桟敷(さじき)席がある内装の組み合わせは京都の先斗町歌舞練場(1927)、祇園新地甲部弥栄会館(1936)と同様である。しかし大阪に現存する演舞場建築はこの旧南陽演舞場のみである。
演舞場とは花街(いろまち)の芸妓や舞妓が舞を披露するための劇場。近世以来の四花街(北新地、新町、堀江、南地)に加えて、近代に入り新世界に南陽新地なる花街が生まれた。東京帝国大学工学部建築学科出身の建築家、増田清によるRC造大規模かつ本格的な演舞場である所からして、新興ながら活況を呈した花街であったらしい。南陽新地は大阪大空襲により壊滅。花街本体の壊滅によって演舞場としての役割を喪失し、昭和25年(1950)映画館として改装、今日に至る。
<施設機能の変遷 演舞場-映画館-女装ハッテン場>
かつて芸妓が上方舞を披露していた演舞場は、新世界国際劇場(一般映画上映)+新世界国際地下劇場(ポルノ映画上映)は70年以上映画館として営業している。しかし、現状映画を観る施設というよりは、女装のハッテン場となっている。
映画産業衰退とともにこの映画館はゲイ(男性同性愛者)と浮浪者の溜まり場となった。しかしこの映画館ではゲイの集団は女装に遷移した(完全に遷移したわけではなく、女装目当ての男性がゲイ男性に触られることがあるとの事)。近頃LGBTQなどと雑多な性的嗜好を一緒くたにすることが流行るが、男性性を理想とするゲイと、女性性を愛する女装及び異性愛男性はあるべき理想が相容れず分離する傾向がある。大阪の女装の歴史は古く近世の道頓堀では女装の茶屋が軒を連ねていたし、今日女装を指す俗称「オカマ」の語源は、1920年代日雇い労働者相手に売春していた男娼達が多数いた新世界に程近い「釜ヶ崎」に由来する説※もある。こうした歴史的背景から新世界国際劇場は近畿圏は元より日本全国から女装が集積する記念碑的建造物となった。
オールナイト上映であり、一応建前上映画館なのだが深夜ともなると女装とエロ目当てのおっさんばかりで、まともに映画など観ている観客はほぼいない。しかし映画館として機能的なシネコンが普及した今日、彼女?ら彼ら抜きでこの都心の大規模な歴史的建築の維持・運営は不可能であろう。つまりLGBTQの集団が文化財建造物を事実上占拠・支持しているという全国的に極めて稀な・・・・恐らく唯一の例。

風格あるファサード。

竣工時の写真。(近代大阪の建築 明治・大正・昭和初期(1984 ぎょうせい)より)
壁は現状吹付白ペンキ塗りであるが、竣工時は大阪倶楽部(1924)や大阪ビルヂング(1925)などの同時代のロマネスク様式建築などと同様、地色は茶系のスクラッチタイル張。フリーズや基壇部もペンキ下は石張りであろう。しかし塔屋の増築を除けば基本的に竣工当時から意匠変更は見られない。
フリーズのジグザグ模様(シェブロン)や丸窓、半円アーチから中世ヨーロッパ建築の意匠を分解・再構築したネオ・ロマネスク様式と判る。

側面ファサード。

構築的な量塊感が良い。


微妙な看板。

夜の国際劇場。
事実上の女装ハッテン場兼ホームレスのシェルターという本映画館の性質上、2024年現在朝の5時までのオールナイト営業である。
入り口横に立つスナックの客引きの女装のおばちゃん?がいい雰囲気。
意識していなかったので気付かなかったのだが、週末の新世界は日本全国から集まる女装男性が闊歩している。
キタ・堂山のゲイは普通に男性の恰好をしているから外見ではよく分からないが、女装は目立つ。
意識していなかったので気付かなかったのだが、週末の新世界は日本全国から集まる女装男性が闊歩している。
キタ・堂山のゲイは普通に男性の恰好をしているから外見ではよく分からないが、女装は目立つ。

新世界国際劇場から徒歩3分程度の場所にあるビデオボックス、通天小町。新世界国際劇場と並ぶ女装の2大枢軸。

「男廃業」という一見謎めいた単語が秘められた何かを暗示している。

この期間の新世界国際地下劇場上演作品は
「脚絆コンパニオン 密着露天風呂(2001)」
「させちゃう秘書 生好き肉体残業(2010)」
「揺れる電車の中で 教育実習生集団凌辱(2009)」
の三本立てである。加齢臭漂う題目と作風と女優のファッションセンスであるにもかかわらず制作年代が2000年代と新しいのが意外である。恐らく耄碌した老人が製作しているのだろう。退廃し切った制作現場が目に浮かぶようである。
どれを見たのか覚えていないのだが大してエロくもなく脚本もデタラメな代物であった。

新世界国際地下劇場へ繋がる大階段。
素晴らしい。
素晴らしい。

同上。

新世界国際地下劇場。
京都の近代木造建築、祇園甲部歌舞練場(1913)同様、本劇場と小劇場の二つの劇場で構成されている。
こちらはかつての演舞場小劇場であろう。現在はポルノ映画をやっている。
かつてはファサード同様華麗なロマネスク様式装飾で覆われていたであろう内装は石膏ボードで見えない。

かつて芸妓や舞妓が舞台へお出ましになった花道であったであろう客席より舞台を望む。
この様な舞台に連続する凸状の客席は、映画観客席としては無意味であり映画館建築ではあり得ない。
この様な舞台に連続する凸状の客席は、映画観客席としては無意味であり映画館建築ではあり得ない。

⇡京都・上七軒歌舞練場(1937)の花道。

現状スクリーンであるが、かつての舞台。
ゴミが散乱している。

西成の低所得者向け集合住宅の宣伝が入った客席。
とにかく汚い。
昼間はよく分からないが、夜間の観客の構成は主として
・痴漢&ナンパ待ち女装
・女装を品定めしながら徘徊する男性
・シェルター代わりに寝泊まりする浮浪者
である。
朝は5時までオールナイト営業である。
女装男性は綺麗なお姉さん風からカツラを被っただけのおっさん丸出しの女装まで容姿レベルは雑多である。
女装を品定めする男性もスーツを着たサラリーマン風の若者からいかにも西成の労働者上りっぽい高齢者まで色々。
・痴漢&ナンパ待ち女装
・女装を品定めしながら徘徊する男性
・シェルター代わりに寝泊まりする浮浪者
である。
朝は5時までオールナイト営業である。
女装男性は綺麗なお姉さん風からカツラを被っただけのおっさん丸出しの女装まで容姿レベルは雑多である。
女装を品定めする男性もスーツを着たサラリーマン風の若者からいかにも西成の労働者上りっぽい高齢者まで色々。

従業員用階段。

同上。

女装狙いのおっちゃんがたむろしている喫煙室。

映写室。

映画館として改装された1950年当時の物と思わしきメカニカルな映写機。
イタリア・ミラノの映写機の名門シネメカニカ社製ヴィクトリアシリーズ。
ムッソリーニのファシスト党がプロパガンダ映画を大量に制作したこともあり、20世紀のイタリアは映画大国でもあった。
イタリア・ミラノの映写機の名門シネメカニカ社製ヴィクトリアシリーズ。
ムッソリーニのファシスト党がプロパガンダ映画を大量に制作したこともあり、20世紀のイタリアは映画大国でもあった。
竣工当時のものと思わしきタイルが美しい。
戦後かなり大規模に殺風景に改装されてしまったらしく、内装は余り竣工当時の意匠が残っていないため貴重な空間である。




タイルは恐らく淡路島の珉平焼であろう。
珉平焼は江戸後期、賀集珉平によって創始された低火度鉛釉で加飾された鮮やかな陶磁器で知られる。とりわけ装飾タイルは大阪船場の問屋資本による投資によって大量生産され19世紀末-20世紀前半欧州や東南アジアなど世界中へ輸出された。

戦後のものだろうが、雰囲気ある照明。

同上。


こちらは新世界国際劇場。かつての演舞場本劇場である。
残念ながらこちらもかつてあったであろう華麗な歴史的様式装飾は完全に失われている。

かつてお茶屋の上客の旦那衆が座っていたであろう桟敷(さじき)席。
現状は・・・・
映画上演中おっさんと女装さんが情熱的にまぐわっていて壮観な光景であった
常連さん?によると照明の明るい幕間はエロ行為は禁止とのこと。逆に映画上演中は暗黙の了解でokという訳である。


新世界国際劇場便所。地下劇場便所と異なり戦後に改装されたように見える。


雰囲気ある空間。
同上。

途中外出して再入場することもできる。

by kfschinkel
| 2024-07-01 14:46
| その他大阪市




