2021年 12月 11日
旧制大阪医科大学付属病院石橋分院(大阪帝国大学医学部付属病院石橋分院 現 大阪大学総合学術博物館)
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竣工年:昭和6年(1931)
設計:大阪府内務部営繕課
恐らく旧制大阪帝国大学(現 阪大)現存唯一の遺構。
大正8年(1919)阪急電鉄より日本初の公立大学たる旧制大阪府立医大に待兼山一帯の土地が寄付され、予科(現 大学教養課程)が大阪市内から当地に移転した。
同敷地内に建てられた旧制大阪医科大学の脳病院。今でいう精神病院である。
竣工年の1931年旧制大阪医科大学は大阪帝国大学医学部となった。帝大昇格に伴い予科は廃止され、事実上の後継校として大阪府立旧制浪速高等学校が設置されている。
スタイルは様式装飾の無い水平線を強調したアールデコ。大阪帝大の他の校舎も同様で、歴史的様式装飾の濃密な先発の7つの帝国大学(東京・京都・東北・九州・北海道・京城・台北)校舎とは対照的である。学部は医・理・工の理系学部のみであった。医学部と工学部は前身の旧制大阪医科大学と旧制大阪工業大学(どちらも新制私立同名校とは無関係)の校舎をそのまま使用している。
三階が旧入院病棟であり、窓に手摺が残る。
<近代の脳病院>
皆さんは本物の精神病者、つまりきちがいと身近に接したことがあるだろうか?個人的に昔、身内が病気になって(薬でなんとかなったが・・・・中々自分からは薬を飲みませんよ、彼ら)往生した経験から言わせてもらうと、患者の家族は本当にたまらない。
近世においては精神病者は役所に願い出て自宅に閉じ込めるか、家族が手に負えない場合は拘置所や非人の保護施設「溜」へ預けられた。
近代に入ると「精神病者監護法」(1900)「精神病院法」(1919)が制定された。前者は所謂座敷牢、後者は脳病院について規定している。
精神病者監護法は警察に代わって精神病者を家族が自宅内の座敷牢へ拘禁する事を許可する法律である。座敷牢の悲惨な状態を東京帝大の呉秀三が批判し、精神病院法は制定されたものの、精神病者監護法は廃止されず、大阪帝大病院石橋分院が開院した昭和7年の段階で座敷牢被拘禁者と脳病院入院者の比率は半々であった。
都市部の富裕層患者は脳病院に入院する事ができた。しかしその治療内容は安静にするとか、作業療法とか、あるいは劇薬や麻酔薬、電気ショックを用いた拷問まがいの対処療法に過ぎなかった。
戦争が始まると、国家の足手まといの精神病者は真っ先に切り捨てられた。食料配給を受けられず入院患者達は緩慢に餓死していったのである。大阪帝大病院石橋分院も大戦末期1944年に閉院している。
統合失調症に効果を示す抗精神病薬の出現は1952年まで待たなくてはならなかった。
研ぎ出しの床もめっきり見なくなった。
ヌルっとした曲線の意匠は暴れる精神病患者がケガをしないように用いた配慮。
ユーゲントシュティール建築の代表作、オットーワーグナーのシュタインホーフ精神病院付属教会(ウィーン 1907)にも同様の工夫が見られる。

モンドリアンのグリッド・スタイルに影響を受けたと思われる、異常に斬新なステンドグラス。

先発の帝大病院と比較すると、予算は決して多くは無かったのかもしれないが、座敷牢に代わる新しい精神医療施設への意気込みが感じられる。
階段の幅が狭くなっている点に注目。
おそらく錯乱した精神病患者が異常な力を出して暴れて走り回るのを踊り場で取り押さえるためであろう。
この大変さは実際に介助した事のある者にしかわからない。
石橋分院同様量塊を積み上げたアールデコである。
旧制大阪医科大学校舎を流用。
モダニズム風に簡略化されたゴシック様式。
水平線を強調したモダニズム建築。
この旧制大阪工業大学は帝大昇格前
東工大と並ぶ名門官立工大であった。
医学部と元々異なる大学同士の合併だが建物の雰囲気は似ている。
堂島にあった大阪帝国大学微生物病研究所。
やはりモダニズム建築。
右下は設立資金20万円を寄贈した洋反物商、山口玄洞。
東大や京大とは異なり大阪帝国大学は全額市民の寄付によって開学している。
現在は全くそうではないと思うが、近世-近代においては大阪は確かに商人の街であった。
理学部研究室の本棚。
懐かしい雰囲気である。
世界最初の汎用電子式コンピュータENIACの影響を受けて作られた、日本最初期のコンピューターである。
怪しげな骨董が多数展示。
湯川秀樹が中間子の存在を予言したのも大阪帝大時代であり
中心は地球ではなく太陽である。
懐かしい。
阪大はこういう古典的な植物学の研究をやっているイメージは余りないが・・・・
これは中之島の蔵屋敷跡から発掘された江戸後期の伊万里焼。
すばらしい。
近所の巨大な町家風農家。
近代の阪急による宅地開発によって富を蓄積した庄屋建築だろう。
親戚らしい。
by kfschinkel
| 2021-12-11 17:53
| 阪神間・北摂










































